研究発表会開催のご案内
この度 、 持続可能な自然再生科学研究(寄附講座)研究発表会
「炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子」の基礎から応用
をZOOMにて開催する事になりましたのでご案内させていただきます。
人類は長年にわたり感染症と戦ってきました。今また、世界中が新型コロナウイルスの脅威にさらされています。病原体の消毒・不活化には、様々な薬剤や方法が利用されていますが、薬剤の腐食性や刺激性、共存する有機物による効果の減弱など、その使用法には注意が必要で、簡便かつ多様な状況に利用できる消毒剤が求められています。手指のみならず広範囲に散布されることから、環境負荷の少ないことも求められる要件の一つです。
炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子は、極性誘電体(陽極と陰極の両方を持つ)で、自己放電性を有し、電解質の存在なしに電気分解を行う特徴を有します。この構造体が水を電気分解し、さらに生じた[H+]イオンを吸蔵する結果、相対的に[OH-]イオンが優位となった水溶液は強アルカリ性を示します。水溶液は電解質を含まないため、強アルカリ性ですが、腐食性、刺激性はありません。本粒子の各種病原体の不活化に関する成果ならびに、本粒子を使った環境保全の試みを紹介し、今後の展望について議論します。
開催日時
2021年1月22日(金)14:30~16:30
ZOOMでの開催となります
発表演題(15分発表、5分質疑)
1. 持続可能な自然再生科学寄付講座、及び新型コロナウイルス感染症対策
(東京大学 食の安全研究センター 小野寺節)
2. 炭酸水酸カルシウム・メゾ構造粒子を用いた黒腐病菌汚染キャベツ種子の消毒
(岡山理科大学 作道章一)
3. 炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子からなる消毒剤による羊スクレイピー病原体(プリオン)の不活化
(農研機構動物衛生研究部門 岩丸祥史)
4. 炭酸カルシウム・メゾ構造粒子を応用した水質浄化:東京大学附属牧場の排水調整池の水質浄化の試み
(東京大学大学院農学生命科学研究科 播谷亮)
参加申し込みについて
参加ご希望の方は、
・お名前 (ふりがなもお願いいたします)
・ご所属
・メールアドレス
をご記入の上、以下のアドレスまで参加希望メールをお送りくださいますようお願いいたします。
ayokoyam[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp ※[at]を@に変えてください
メールをいただきましたら詳細についてご返信させていただきます。
発表概要を掲載いたしますのでどうぞご覧ください。
研究発表会へのご参加、心よりお待ち申し上げます。
1.持続可能な自然再生科学寄付講座、及び新型コロナウイルス感染症対策
小野寺 節
東京大学食の安全研究センター
2019年9月1日付で東京大学寄付講座として持続可能な自然再生科学分野が設立された。その主な目的は炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子を用いて1.農業用溜池の水質改善を図る、2.植物工場における当該物質を含む循環水の有効性の検討、3.プリオンの土壌・環境からの汚染除去法の開発、4.当該物質の作物及び土壌散布における土壌微生物環境の変化の解明、5.当該物質の動物散布による乳房および体内病原体に対する分布影響評価である。
すでに理化学研究所の研究により、炭酸水素ナトリウム製剤が植物の病気予防に効果を有する(ソフト農薬:柑橘類の黒点病に有効)が明らかにされている。また、防衛医科大学校の研究により炭酸水素カルシウム溶液が多種の微生物に重層的な消毒効果(戦場の負傷に有効)を有することが明らかにされている。新寄付講座は過去に明らかにされた類似物質をさらに発展させ、消毒効果、農薬効果を強化させることを目的としている。
用いた炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子は植物由来のカルシウムイオンや炭酸イオンに流体状態にて高電場を作用させ、メゾサイズの微細な特殊構造をもつ水和結晶として用いる。この水和結晶は重炭酸イオンと水酸イオンを半永久的に生成し、粒子周囲の微細環境を高pHにする。我々はこの炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子懸濁液が、インフルエンザウイルス、ノロウイルス、スクレイピー病原体(プリオン)、SARS-CoV-2に対して強力な殺菌作用を有することを明らかにした。
2020年2月15日に首相官邸内閣官房企画課より新設された新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の臨時委員として、3月から上記の会議(専門家会議)に出席し、議事に参加した。小生は担当する治療薬・消毒薬の開発で関連議題に出席し、後は企業、厚労省より送られてくる資料、メールに対し、適宜意見を述べた。4月7日の緊急事態宣言により会議への交通機関の利用の自粛が実施された。しかし首相官邸、厚労省、各官庁上層部の会合はすべて霞が関、あるいは永田町で開催され、空席の多い電車を用いて毎日のように通勤・公務を行うこととなった。また、外務省の会議に出席し中国とのonline会議でCOVID-19の治療薬・消毒薬の開発情報について議論した。
炭酸水酸カルシウム・メゾ構造粒子はその使用方法が工夫され、安全性、持続性が検証されれば現在のCOVID-19対策に対して十分に有効と考えられる。当該物質がマクロ化して構造変性した炭酸カルシウムは、水溶性カルシウムの物性を有し植物に対しては土壌改良材として働き、環境毒性を起こす心配は無く、将来代表的なソフト農薬となりうる。 詳細は寄付講座のWEBにて参照されたい。
2.炭酸水酸カルシウム・メゾ構造粒子を用いた黒腐病菌汚染キャベツ種子の消毒
作道章一1), 播谷亮2), 古崎孝一3), 太西るみ子4), 小野寺節2,5)
1 )岡山理科大学獣医学部獣医学科、 2) 東京大学大学院農学生命科学研究科、
3) 一般財団法人ミネラル活性化研究所、 4) 株式会社サンタミネラル、
5) 東京大学食の安全研究センター
黒腐病菌 Xanthomonas campestris pv. campestris (Xcc) はキャベツなどのアブラナ科植物に感染し、世界中で病害を引き起こしている細菌の一つである。本菌は土壌および汚染種子から伝播する。Xccなどに汚染した種子の消毒技術には農薬法,温湯浸透法,乾熱消毒法がある。しかし、これらの方法には残留農薬、耐性菌出現、長時間処理、発芽率低下などの課題がある。
炭酸水酸カルシウム・メゾ構造粒子は植物由来のカルシウムイオンや炭酸イオンに流体状態にて高電場を作用させ、メゾサイズの微細な特殊構造をもつ水和結晶である。これまでの研究で、ウイルス(インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルス、ノロウイルス)や細菌(大腸菌、サルモネラ)に対する炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子懸濁液の不活化効果が報告されている。本研究発表では、これらの研究を発展させ、種子消毒への有効性を検討した。
まず、炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子懸濁液(以下、消毒剤と表記する)のXccへの効果を調べた。Xcc懸濁液を等量の消毒剤で処理を行うと、D値(菌数CFU(colony forming unit)/mlを1log減少させるのに要する時間)は0.319分であった。次に、Xccに汚染したキャベツ種子を25℃、30分間消毒剤で処理すると、蒸留水処理と比較(3.52 log10 CFU/ml)して、種子から回収された菌数が大幅に減少することがわかった(0.36 log10 CFU/ml)。さらに、消毒剤で処理した種子の黒腐病の発生率は蒸留水(56.67%±8.82%)と比較して有意に低かった(26.67%±3.33%)。また、消毒剤処理により種子に悪影響がないかについて調べるため、未汚染種子に対して消毒剤処理を行い、5日間培養後に比較したところ、蒸留水と消毒剤処理の間で、発芽率と茎の長さに有意な違いはなかった。これらのことから、本消毒剤は、発芽や植物の成長に悪影響を与えることなく、種子消毒が可能な技術として期待できるものと考えられた。
3.炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子からなる消毒剤による羊スクレイピー病原体(プリオン)の不活化
岩丸祥史
農研機構動物衛生研究部門
プリオン病(伝達性海綿状脳症)は神経変性疾患で、ヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病、クールー病、ヒツジ、ヤギのスクレイピー、牛海綿状脳症(BSE)、シカ類の慢性消耗病が知られている。これらの病原体の不活化には1~2規定の水酸化ナトリウム、20~40%の家庭用漂白剤や130℃のオートクレーブが用いられているが、より簡易な方法の開発が望まれる。われわれは、炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子からなる消毒剤がスクレイピープリオンに対する不活化作用を示すことを明らかにし、その有用性を検討した。スクレイピープリオン感染細胞を新規消毒剤で室温1時間処理すると、ウエスタンブロット法で異常プリオン蛋白質は検出されなかった。処理した細胞懸濁液を接種したマウス5匹のうち3匹は接種後368日生残し(2匹は235,286日で死亡)、感染価の減弱が示された。改良した定量的Protein Misfolding Cyclic Amplification (PMCA)法を用いて病原体の感染価減少の程度を推定したところ、消毒剤の処理により4.45-logの感染価の減少が認められた。本消毒剤はヒト、動物の組織と接触すると素早く中性化するため、外科手術器具の消毒や、環境におけるプリオンの除去に有効と考えられる。
4.炭酸カルシウム・メゾ構造粒子を応用した水質浄化:東京大学付属牧場の排水調整池の水質浄化の試み
播谷 亮1)、小野寺 節1)、杉浦勝明1)、横山 隆1)、古崎孝一2)、太西るみ子3)
1)東京大学大学院農学生命科学研究科 持続可能な自然再生科学研究寄付講座、
2)ミネラル活性化技術研究所 、3)株式会社サンタミネラル
持続可能な社会を実現するため、海、河川、湖沼及び溜池等の水質浄化は重要な課題である。古崎らは、炭酸カルシウム・メゾ構造粒子に腐植質、糖質及び植物由来の銅、鉄、マンガン、亜鉛などの金属元素を配合することにより、水質浄化作用が現れることを発見、この技術を農業用溜池や公園池の浄化に応用し良好な結果を得た。今回、本技術により、アオコの発生等水質の悪化が問題になっていた東京大学附属牧場(東大牧場)の排水調整池の浄化を試みたので、その概要について報告する。
【方法】東大牧場では、牛(約20頭)、豚(約50頭、2020年4月以降は10頭以下)、山羊(約100頭)、鶏(約600羽)等を飼養している。それらの糞尿および畜舎排水(日平均約3.5m3)は固液分離機と膜分離活性汚泥法家畜糞尿汚水処理装置(日平均処理可能汚水量16.5m3、大雨等で一定以上の量が流入した場合はオーバーフローする設計)で処理後、入口水路を経て調整池(面積約700m2、水深約1.5m)に流れ込み、さらに出口水路を経て浸透地(面積約3000 m2、水深約0.5m)に流入する。2019年9月16日、調整池に浄化セラミックRS-CC(ヘドロなど有機性堆積物の分解消滅、2.5kg/袋)及びS-M(B)(水質浄化加水分解、5kg/袋)各計100kgを各々水底と水中に、水質浄化水M-717RS滴定装置(1L/日)を池端に、水底流循環ファン(浅瀬の溶存酸素を水底に送り込む)を池中央部に設定し浄化を開始した。この時点では調整池表面はアオコに覆われ、水は混濁していた。以降、原則1か月おきに調整池の3カ所(入口、中間、出口)の水質検査(化学的酸素要求量(COD)、溶存酸素(DO)、全窒素(T-N)、全燐(T-P))を実施した。
【結果と考察】浄化開始1か月後、2019年10月の調査では、アオコは消失、CODの低下、DOの上昇、T-NとT-Pの低下が確認された。3か月後、12月までは、同等の水質が維持された。2020年1月、水底流循環ファンが水位低下により稼働不可能となり、以降水質は悪化傾向あるいは不安定となった。2020年6月には、入口で水質の著しい悪化が観察され、汚水処理装置からのオーバーフローが原因と考えられた。2020年8月と10月の調査では、CODはほぼ変化なし、DOは激減(10月調査時、浮草が繁茂)、T-NとT-Pは増加傾向にあった。
以上より、畜産排水の浄化に本技術が応用可能であることが示唆された。一方、水底流循環ファンの水位低下への対応等、課題が残った。
お問い合わせ先
東京大学大学院農学生命科学研究科 持続可能な自然再生科学研究寄付講座
特任教授 横山 隆(よこやま たかし)
Tel:03-5841-8214
E-Mail:ayokoyam[at]g.ecc.u-tokyo.ac.jp ※[at]を@に変えてください
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