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CAC717がノロウィルスを不活化するとの論文が掲載されました。



発表者

島倉 秀勝(東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 特任研究員:当時)

玄-永田 文宏(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部 流動研究員:当時)

播谷 亮(東京大学大学院農学生命科学研究科農学国際専攻 特任教授)

古崎 孝一(一般社団法人ミネラル活性化技術研究所 代表理事)

加藤 優生(東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専修 学生

山下-川西 奈那子(東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 博士課程)

Dung T. LE(東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 博士課程)

都築 雅乃(東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専修 学生:当時

遠矢 幸伸(日本大学生物資源科学部獣医学科 教授)

久和 茂(東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 教授)

斎藤 博之(秋田県健康環境センター保健衛生部 部長)

堀本 泰介(東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 教授)

小野寺 節(東京大学大学院農学生命科学研究科附属食の安全センター 特任教授)

芳賀猛(東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 教授)



発表のポイント

炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子からなる新規消毒剤(CAC-717)のノロウイルスに対する消毒効果の有用性を評価しました。

CAC-717のヒトノロウイルス(HuNV)不活化効果は、常用されている1,000 ppmの次亜塩素酸ナトリウムより安定的で、かつ有機物質の影響を受けにくいものでした。 CAC-717は、HuNVで汚染された表面を消毒し、効果的にHuNV感染リスクを低減させる新しい方法となる可能性があります。


発表概要

 ヒトノロウイルス(HuNV)は、食物媒介性胃腸炎の主な原因の1つであり、感染者、ウイルス汚染食品、汚染された環境表面から容易に伝染します。HuNVの伝播リスクを低減させるために、効果的な消毒方法が必要です。CAC-717は、 炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子(注1)からなる新規の消毒剤です。東京大学大学院農学生命科学研究科の島倉秀勝特任研究員、小野寺節特任教授および芳賀猛教授のグループは、CAC-717がHuNVの消毒に有効なことを明らかにしました。研究材料として、患者糞便検体に由来するHuNVと、HuNVの代替ウイルスの1つである培養マウスノロウイルス(MNV)を使用しました。MNVに対する消毒効果は、感染性試験および透過型電子顕微鏡(TEM)観察により評価しました。HuNVに対する不活化効果は、RTq-PCR法(注2)によって評価しました。MNVは、TEM観察で、CAC-717により100秒以内で破壊されることが確認されました。HuNVのウイルスゲノムRNAは、CAC-717の炭酸水素カルシウムメゾスコピック構造の存在下で千分の1以下に減少しました。CAC-717は、便懸濁液中のHuNVを安定的に不活性化し、その効果は次亜塩素酸ナトリウムよりも有機物質の影響を受けにくいものでした。CAC-717は、HuNVで汚染された環境表面を消毒するための有用な消毒剤と考えられます。


発表内容

【研究の背景】

HuNVは、食物媒介性胃腸炎の主原因の1つです。感染者は糞便中に数十億個のHuNV粒子を排出します。他の人への感染は、少数のHuNV粒子を摂取するだけで容易に成立します。

HuNVの感染を阻止するために、HuNVで汚染された環境表面に対する効果的な消毒方法が必要です。熱、紫外線および化学消毒剤が、HuNVの消毒方法として広く使用されています。しかし現在使用されている消毒方法にはそれぞれ欠点があります。例えば、加熱消毒は耐熱材料にしか適用できません。次亜塩素酸ナトリウムは金属の腐食、粘膜刺激を引き起こす可能性があり、またその消毒効果は蛋白質などの有機物の存在により減弱する可能性があります。このように、従来の消毒方法には状況によって制限があり、簡単にかつ全ての状況に使用しうる新しい消毒剤が必要です。

最近、 炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子を含むCAC-717という新たな消毒剤がインフルエンザAウイルスの消毒に効果を示すことが報告されました。この研究の目的は、HuNVを不活性化するための新しい消毒剤の候補として、CAC-717の消毒効果を評価することです。

【研究内容】

CAC-717(FDA / USA Regulation No. 880.6890、クラス1消毒剤、日本特許No. 5778328)は、炭酸水素カルシウムを含むミネラルウォーターに継続的に電界を印加して生産されました。CAC-717には、メゾスコピック構造を持つ6.9 mMの炭酸水素カルシウム粒子が含まれています。メゾスコピック粒子は水素イオンを吸蔵する物理的性質を持っているため、CAC-717はpH12.6を示します。

対照として、70%エタノール、1,000 ppmの次亜塩素酸ナトリウム、3種類のpH(2.15、7.20、12.33)のリン酸緩衝液(PBS)、メゾスコピック構造のないCAC-717(pH7.0)を用いました。

ウイルスとして、MNVとHuNVを用いました。MNVは、日本のマウスの糞から分離されたMNV S7株を用い、RAW264細胞で増殖させました。HuNVは細胞系で培養が困難なため、4人のHuNV感染患者由来の糞便検体を用いました。今回使用した4検体のHuNVの遺伝子型は、GI.2、GII.4 Sydney 2012、GII.5およびGII.17でした。

MNV懸濁液をCAC-717またはpH7.2のPBSと1:9の比率で混合し、1、15、30および60分間室温で反応させました。その後、MNVのウイルス力価を50%組織培養感染量(TCID50)で評価しました。その結果、CAC-717の消毒効果は、処理後1分で見られました(図1左)。なお、最高濃度のCAC-717処理では、RAW 264細胞の細胞毒性が観察されました。精製MNV懸濁液をCAC-717で100秒間処理しTEM観察した結果、MNVカプシドの破壊が観察されました(図1右)。

HuNVについては、4検体の糞便および精製試料を約2.5×104コピー/μlに希釈して実験に供しました。なお、本研究では、Propidium monoazide (PMA)(注3)を併用したRTq-PCR法によって、無傷のカプシドを保持する活性HuNVのゲノムRNAを定量解析しました。

CAC-717の消毒効果をHuNV GII.4 Sydney 2012を含む精製試料を用い検証しました(図2左)。CAC-717処理では、未処理検体と比較して、HuNVゲノムRNAが有意に減少しました。CAC-717と加熱または次亜塩素酸ナトリウムの間で効果に有意差はありませんでした。

メゾスコピック構造の不活化効果を証明するために、CAC-717と対照を比較しました(図2右)。CAC-717と同じpH 12.6のPBSは、HuNVに対して不活性化効果を示しませんでした。 さらに、メゾスコピック構造のないCAC-717も、HuNVの不活性化を示しませんでした。

実際の環境状況下では、糞便中のHuNVの周囲には様々な有機物質が存在します。これらの有機物質は消毒効果を阻害する可能性があります。このことから、4つの糞便試料について、ウイルス精製なしに各消毒方法の効果を検討しました(図3)。CAC-717処理では4検体全てにおいてHuNVの有意な減少が確認されました。一方、次亜塩素酸ナトリウム処理では、GII.17を除き十分な不活性化効果がみられませんでした。

CAC-717と次亜塩素酸ナトリウムに対する有機物質の影響を検証するために、ウシ血清アルブミン(0.5、2.5あるいは5.0%)を加えた4検体の精製試料を使用した不活化試験を実施しました(図4)。その結果、CAC-717のHuNVに対する不活性化効果は、1,000 ppmの次亜塩素酸ナトリウムよりも有機物質の影響を受けにくいことがわかりました。

【社会的意義・今後の予定】

本研究により、CAC-717は HuNVを安定的に不活化することが明らかになりました。CAC-717を臨床現場、家庭、製造業および公共機関等で使用することにより、これまでの消毒法より効果的にHuNV感染のリスクを低減できる可能性があります。

本研究において、高濃度のCAC-717は細胞毒性を示したことから、CAC-717を人や動物等に適用する場合には安全性についての慎重な研究が必要です。また他のウイルスに対するCAC-717の効果、様々な環境面に適用された場合のメゾスコピック構造の安定性等について、さらなる研究が必要です。



図1 マウスノロウイルス(MNV)に対するCAC-717の消毒効果。左:CAC-717の消毒効果は処理後1分で見られました。右:透過電子顕微鏡観察により、CAC-717処理でMNVカプシドの破壊が観察されました。










図2 ヒトノロウイルス(HuNV)に対する消毒効果。左:CAC-717処理では、未処理検体と比較して、HuNVゲノムRNAが有意に減少しました。右:CAC-717と同じpH 12.6のPBS、メゾスコピック構造のないCAC-717は消毒効果を示しませんでした。









図3 4検体のHuNVに対する消毒効果。CAC-717処理では全ての検体においてHuNVゲノムRNAが有意に減少しました。











図4 ウシ血清アルブミンを加えた4検体のHuNVに対する消毒効果。CAC-717のHuNVに対する不活性化効果は、1,000 ppmの次亜塩素酸ナトリウムよりも有機物質の影響を受けにくい。








発表雑誌

雑誌名:「FEMS Microbiology Letters, 366, 2019, fnz235」

論文タイトル:Inactivation of human norovirus and its surrogate by the disinfectant consisting of calcium hydrogen carbonate mesoscopic crystals

著者:Hidekatsu Shimakura, Fumihiro Gen-Nagata, Makoto Haritani, Koichi Furusaki, Yusei Kato, Nanako Yamashita-Kawanishi, Dung T. LE, Masano Tsuzuki, Yukinobu Tohya, Shigeru Kyuwa, Hiroyuki Saito, Taisuke Horimoto, Takashi Onodera and Takeshi Haga*

DOI番号:10.1093/femsle/fnz235

論文URL:https://academic.oup.com/femsle/article/366/19/fnz235/5638871


問い合わせ先

東京大学大学院農学生命科学研究科 獣医学専攻 感染制御学研究室

教授 芳賀 猛(はが たけし)

Tel:03-5841-7573

E-Mail: ahaga[at]mail.ecc.u-tokyo.ac.jp [at]を@に変えてください

東京大学大学院農学生命科学研究科 附属食の安全研究センター

特任教授 小野寺 節(おのでら たかし)

Tel:03-5841-8182

E-Mail:atonode[at]mail.ecc.u-tokyo.ac.jp [at]を@に変えてください


用語解説

注1 炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子

メゾスコピック (mesoscopic)粒子とは、巨視的/マクロ (macroscopic) な領域と微視的/マイクロ (microscopic) な領域の中間に位置づけられる大きさの粒子である。本研究で使用した 炭酸水素カルシウム・メゾ構造粒子は、直径50〜100nmの結晶で、蓄電と放電、水素イオンの吸蔵およびテラヘルツ電磁波の放射等の物性を有する。


注2 RT-qPCR (quantitative reverse transcription polymerase chain reaction)

リアルタイムPCR(Real-time PCR)は、定量PCR(Q-PCR)のひとつ。ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR) による増幅を経時的(リアルタイム)に測定することで、増幅率に基づいて鋳型となるDNAの定量を行なう。リアルタイムPCR(real time PCR)は逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription PCR; RT-PCR)と組み合わせてRNAの定量へ使われる。この組み合わせによる技法をRTq-PCR(定量RT-PCR法)と呼ぶ。


注3 Propidium monoazide (PMA)

PMAは、微生物の生死判別に広く使用されている。PMAは損傷したカプシドの穴を通して核酸に結合し、RT-qPCRのDNAポリメラーゼ反応をブロックする。したがって、理論的には、PMA処理RT-qPCRは、感染性を保持するインタクトなカプシドを保持するウイルスのゲノムRNAのみを検出する。

 

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